かごっまの話

鹿児島弁の特徴
関東鹿児島県人会連合会副会長の救仁郷 斉さんが、鹿児島県の方言について、長年にわたり研究された論文「鹿児島弁の特徴」を転記させていただきました。

救仁郷 斉さん略歴
建設省住宅局長。日本建築センター理事長。1999年勲二等叙勲。
現在、財団法人日本建築センター顧問。

目次
はじめに
1.音便
(1)二重母音
(2)助詞が前の母音と複合した音便
(3)ラ行音
(4)その他の主な音便
(5)例文
2.アクセント
(1)二型特殊アクセント
(2)拍
(3)アクセント節
(4)外国語
(5)例文
3.文法
(1)動詞の活用
(2)助動詞の活用
(3)助動詞の特徴
(4)助詞の特徴
(5)形容詞の特徴
(6)形容詞の音便
(7)副詞の特徴
(8)敬語あとがき

はじめに

巷間よく鹿児島弁は島津藩が幕府の隠密対策のために作ったものだといわれている。しかし、これは明らかに俗説である。学校制度もなく、テレビやラジオもない江戸時代に、いかに島津藩が強力であっても民衆の言葉まで変えることは到底不可能なことである。明治になって学校制度ができ、いわゆる標準語を学校で教えても、鹿児島弁は依然として残り続けている。ただ、ここ30年ぐらいテレビ時代になって、地元でも鹿児島弁が崩れ始めたように感じられる。

鹿児島弁といっても一様ではない。各地で相当な違いがある。出水方言は熊本から博多の筑肥方言の影響を大きく受けているし、志布志など大隅の方言は宮崎から大分、北九州の豊日方言と共通点がある。また、種子島の方言には関東地方の方言に近いものも見られ、奄美の方言は、日本の本土方言に対する沖縄、奄美方言の一部になっている。 

「日本の方言地図」(中公新書)を見ると、言葉の流れは、藩とか県を越えて大きく流れているのが判る。また、柳田国男の「言語周圏説」というのがある。日本には東と西に大きな言葉の流れがあるが、それと別に中央の言葉が時間をかけて地方に流れて行き、次の時代には、中央ではその言葉が廃れて次の言葉に変わってしまい、結局古い言葉が遠い地方に残ってしまうという説である。この例はいろいろあるが、鹿児島に関係のある一例だけ上げておこう。鹿児島弁に「とぜんね」という言葉がある。「徒然草」の徒然から生じた言葉であるが、現在では、うら寂しいといったニュアンスで使われている。ところが現在の東北地方に「とぜん」という方言があるそうである。こちらは元の、退屈だという意味で使われているそうである。

このように、鹿児島弁は決して他の地方の方言から独立した独特のものではない。しかし、本土方言の最南端にあるので特異な存在であること異論はない。

そこで、鹿児島弁がどういう特徴を持っているのか、いくつかの項目に分けてみてみよう。

1.音便

(1)二重母音

ai → e

  • daikon → dekon(大根)
  • aisatu → esat(挨拶)
  • akai → ake(赤い)
  • fukai → fuke(深い)

oi → e

  • koi → ke(来い)
  • futoi → fute(太い)
  • toinokuti → tenokut(樋の口)

ei → e(i)

  • kasei → kase(加勢)
  • teinei → tene(丁寧)
  • sensei  → sense(先生)

ui → i

  • samui → sami(寒い)
  • usui → usi(薄い)

ii → i

  • hosii → hosi(欲しい)
  • niise → nise(新背)

au、afu → o

  • kau → ko(買う)
  • utau → uto(歌う)
  • wautyaku → otyat(横着)
  • kyaudai → kyode(兄弟)
  • safudau → sodo(騒動)

ou、oo、u : ufu → u

  • kyou → kyu(今日)
  • isidourau → izuro(石灯篭)
  • ookaze → ukaze(大風)
  • oozeki → uzet(大塞き)
  • nufu → nu(縫う)
  • yufu → yu(言う)

一般的に日本人は二重母音が苦手のようである。日本の方言では二重母音はなまることが多い。例えば江戸弁では 大工(daiku)を(de : ku)、太い(futoi)を(fute : )など(ai)→(e : )、(oi)→(e : )のなまりがある。これは全国的に見られるが、かならず(e : )という長音に発音する。(e)という短音に発音するのは鹿児島弁だけのようである。また、鹿児島弁の場合にはほんの一部の例外を除いて(例えば、魚の鯉はkoiでkeにはならない)規則的に変化する。ただ、どういうわけか種子島だけは全国同様長音に発音するようである。

しかし鹿児島弁の音便はむつかしい。あとでのべるように鹿児島弁ではラ行音リ、ル、レなどはよくイ音になる。ところがそのiは前の母音とくっついて音便変化することはない。

  • 此れ → koi
  • 其れ → soi
  • 釣り → tui
  • 瓜 → ui
  • 襟 → ei
  • 垂水 → taimit

私たちの子どもの頃は旧仮名遣いで、やう、よう、あう、おう、おお、あふ などに悩まされたものである。しかし、鹿児島弁は旧仮名遣いをもとにしてなまっているので語源を探すときの有力な武器になる。例えば、秋祭りの「ほぜ」の語源は方(hau)祭、奉(hou)祭などが考えられるが、なまりの規則から方祭に勝ち目があり、水瓶の「はんず」は半挿(zafu)ではなく、飯銅(dou)が語源らしいと判る。(上村鹿大名誉教授)

私たちは動詞の活用形を「四段活用」と習ったが、私たちのすぐ後から「五段活用」というようになった。これは「書く」という動詞の活用は、書か(ア行)ない、書き(イ行)ます、書く(ウ行)、書け(エ行)ば、書こ(オ行)うと、ア行からオ行まで五段にわたって活用するからである。ところが、昔の仮名遣いでは「書こう」は「書かう」でオ行がなく四段だった。しかし発音はkakauではなくkakouで先に述べたau → o:という変化の法則になっていた。この au → o:の変化は外国にも見られる。自動という英語のautoはその例である。

なぜこうした音便の変化が起こるのか。次の図を見ていただきたい。
母音三角形これは母音三角形といわれているものである。左右は発音のときの口の中の舌の位置で、左に行くほど前で右に行くほど後ろになっている。上下は口の開きで、上に行くほど小さく下に行くほど大きくなっている。従って、aは舌は真ん中、口はもっとも大きく開いて発音し、iは舌は一番前、口は小さく開いて発音する。
この図をよく見ると、aとiの中間にeがあり、aとuの中間にoが位置している。これは、ai → e、au → oの音便変化に対応している。また、ui → i,ou → u、そのほか表にはのせてないがeu → u,ae → e,ao → o等、一般的には後ろの母音に発音されることが多い。ただ、ei → e、oi → eのようにeだけは鹿児島弁(日本語でも)なぜか優位である。

(2)助詞が前の母音と複合した音便

----に

ni → iとなり、前の母音と二重母音になり前述のような法則に従って音便変化する。

  • 前に : maen i → maei → mae
  • 山に : yamani → mamai → yame
  • 此処に : kokoni → kokoi → koke
  • 足に : asini → asii → asi

----は

wa → aとなり、音便変化する。

  • 柿は : kakiwa → kakia → kakya →(kaka)
  • 水は : mizuwa → mizua → mizya →(miza)

----を

wo → uとなり、音便変化する。

  • 水を : mizuwo → mizuu → mizu
  • 柿を : kakiwo → kakiu → kakyu →(kaku)

----の

no → nになることがある。

  • 家の : ieno → ien
  • 此処の : kokono → kokon

(3)ラ行音
ラ行音はダ行音またはタ行音になりやすい。

  • 柱 : hasira → hasita
  • 後ろ : usiro → usito
  • 落花生 : ratkasyau → datkisyo
  • 留守 : rusu → dusu
  • 立派 : ritpa → ditpa
  • 見知らぬ : misiranu → misitan
  • (うんだも)知らぬ : siranu → sitan

語中、語尾の(リ)(ル)(レ)は(イ)になる。

  • 針 : hari → hai
  • 此れ : kore → koi
  • 車 : kuruma → kuima

この場合には、前述のように二重母音になっても更に音便化することはない。

(4)その他の主な音便
(a)語末のマ行(ミ)(ム)(場合によっては(モ)も)、ナ行(ニ)(ヌ)(場合によっては(ノ)も)、は撥音(ン)になる。

  • 耳 : mimi → min
  • 谷 : tani → tan
  • 噛む : kamu → kan
  • 死ぬ : sinu → sin
  • 山の : yamano → yaman

(b)イ列音、ウ列音は促音(ッ)になることが多い。

  • 靴の釘の首 : kutuのkugiのkubi → kutのkutのkut
  • 秋の鯵の味 : akiのajiのaji → atのatのat

動詞の終止形は当然、ウ列音である。従って原則として促音(ッ)になる。

  • 書く : kaku → kat
  • 泳ぐ : oyogu → oyot
  • 投げる : nageru → nagut

ただし、終止形の最後が(ス)のときは母音(U)の脱落した(s)に、(ヌ)(ム)のときは前記(a)によって(n)と撥音化し、ワ行、ア行五段活用のときは(ウ)が語幹の語尾の母音とくっついて音便化する。

  • 出す : dasu → das
  • 貸す : kasu → kas
  • 死ぬ : sinu → sin
  • 読む : yomu → yon
  • 飲む : nomu → non
  • 買う : au → ko
  • 笑う : warau → waro
  • 思う : omou → omo

五段活用の動詞の連用形は当然、イ列音である。連用形のうち「ます。」(鹿児島弁では「もす。」)に接続する(キ)(ギ)(チ)は促音化し、(シ)は(s)に、(ニ)(ミ)は(n と撥音化する。なお、過去形の助動詞「た」に接続する(イ)は前の母音とくっついて音便化する。

  • 書きもす : kakimosu → katmosu
  • 打ちもす : utimosu → utmosu
  • 出しもす : dasimosu → dasmosu
  • 死にもす : sinimosu → sinmosu
  • 読みもす : yonimosu → yonmosu
  • 書いた : kaita → keta
  • 泳いだ : oyoida → oeda

(c)語中、語尾の「ジ」が無声化して「シ」になる。

  • 用事 : youji → yusi
  • 乞食 : kojiki → kosit

(d)語中、語尾の「リャ」、「リョ」がRが落ちて「ヤ」、「ヨ」になる。

  • 総領 : souryau → suyo
  • 良かりゃ(良ければ) : yokarya → yokaya

  語頭では(a)のR → D(T)の変化で「ジャ」、「ジョ」になる。

  • 料理 : ryouri → dyui
  • 両方(棒) : ryanbau → dyanbo

(e)拗音(シャ、シュ、ジャ、ジュ等)が直音になる。

  • 亭主 : teisyu → tesu
  • 十五夜 : jugoya → zugoya

(f)語末の「ム」、「ミ」は撥音化して「ン」になる。

  • 噛む : kamu → kan
  • 耳 : mimi → min

(g)サ行音がハ行音になる。

  • 書き申さぬ : kakimausanu → katmohan
  • しやさぬか(しないか) : siyasanuka → siyahanka

s → hは大阪弁の特徴である。鹿児島弁はその影響を受けているのではないか。大阪弁の「かめへん」(かまわない)は「かまいせぬ」からkamaisenu → kamehen、よく使われる「---はる」は、「なさる → なはる → はる」と変化したものだそうだ。
(h)子音(n)(k)は脱落しがちで残った母音が前の母音とくっついて音便化する。

  • 山に : yamani → yamai → yame
  • 赤く : akaku → akau → ako

(i)語尾の(シ)(ス)の子音が脱落して、無声音sになる。

  • 足が : asiga → asga
  • 昔 : mukasi → mukas
  • 明日 : asu → as
  • 烏 : karasu → karas

(5)例文
いっぺ こっぺ さつっもしたや すったい だれもした。

  • いっぺ … いっぱい itpai → itpe
  • こっぺ … 対句。日本語にはよく使われるが、特に鹿児島弁に多い。よんごひんご、やっとさっと、しんぺこんぺ 
  • さるっもした … やさるき申したらsarukimausitara → sarutmositaya
  • さるく … 去ると歩くの混合語? さ(接頭語)+歩く?九州各地。(全国方言辞典)
  • たや … たらtara → taya
  • すったい … すっかり sutkari → suttai : 秋田、壱岐で、すったり。(全国方言辞典)
  • だれもした … だる : 豊前、肥後菊地郡、岡山、山口、大分、福岡で、くたびれる。(全国方言辞典)

2.アクセント

(1)二型特殊アクセント
鹿児島弁のアクセントは特殊アクセントといわれている。日本のアクセントの地域分布は、おおまかに京都式アクセント、東京式アクセント、特殊アクセント、それぞれの中間地域のアクセントのない地域に分けられる。東京式は東日本、京都式は西日本であるが、中国、北九州だけはなぜか東京式である。

特殊アクセントの地域は、九州の鹿児島県を中心に宮崎県南部、熊本県南部、佐賀県南部、長崎県南部と五島列島、沖縄県の大部分の地域である。なお、九州のうち、北九州市、大分県すなはち豊前、豊後の東京式の地域と特殊アクセントの地域を除いた地域(博多(豊前)、熊本県県北部、宮崎県北部、など)は、アクセントがないか曖昧な地域である。

二型特殊アクセントは東京式や京都式が何種類かの型を持っているのに対し、アクセントが一番最後の拍にあるか、その前の拍にあるかという二つの型しかない形である。
二型特殊アクセント
このように、鹿児島弁のアクセントは、何拍になっても尻上がり型と尻下がり型の二種類だけである。ちなみに五拍では、東京式で5、京都式で8種類の型があるという。なお、都城を中心に志布志あたりまで一型特殊アクセントの地域がある。尻上がり型だけの地域である。

この特殊アクセントは、まず京都式から東京式が派生し、その東京式が変化したものであるといわれている。(平山輝男都立大学名誉教授・鹿児島出身)その根拠は、アクセントの型は古いものほど多く、新しくなるほど少なくなる傾向があること、南西諸島の一部(種子島及び徳之島から沖縄本島の北部にかけて)に東京式に近いアクセントの型があるなどらしい。しかし、これについては次の点から疑問を感じている。

  • 一つ一つの単語のアクセントは京都式に近く、東京式とはほんど逆である。
  • 東京式では必ず第一拍と二拍の間に高低があるが、鹿児島弁では必ず最後の拍とその前の拍の間に高低があり、まるで逆である。
  • 次に述べるアクセント節のまとめ方が東京式とも京都式とも全然違った体系である。

なお、日本語のアクセントは音程の高低で表すいわゆる高低アクセントである。高低アクセントは東アジアで韓国語、中国語、蒙古語などに用いられる。一方、英語などのヨーロッパの言葉のアクセントは発音の強弱で表す強弱アクセントである。個人差はあるだろうが、私の鹿児島弁ではドレミハの音程で尻上がり型は一音上がり、尻下がり型は一音上がって二音半下がりとなっている。
___/ 一音上がり
___/\
                \一音上がり二音半下がり

(2)拍
日本語では、東京式であろうと京都式であろうと、特殊アクセントを除くと、促音(っ)、撥音(ん)、無声音(s)は一拍として数え、二重母音は二拍に数える。これに対して、鹿児島弁では促音、発音、無声音は拍に数えず、二重母音は一拍となる。

日本男児にっぽんだんじ標準語では7拍。鹿児島弁では4拍
鹿児島弁はかごしまべんは かごっまべんは標準語では7拍。鹿児島弁では5拍
ありますあります あぃもス標準語では4拍。鹿島弁では二拍

(3)アクセント節
アクセント節の最初の語がアクセントの型を決める。日本語では助詞を含めてアクセント節をつくる。また複合語も一つのアクセント節である。この場合、鹿児島弁ではアクセント節の最初の語のアクセントの型が全体のアクセントの型を決めてしまうというはっきりとしたルールがある。これは鹿児島弁のアクセント体系の特徴の一つである。

単語+助詞

●尻上がり型

  • 谷山 tannyama
  •           ____/
  • 谷山が tannyamaga
  •             ____/
  • 日本 nihon
  •           __/
  • 日本の nihonno
  •           ____/

●尻下がり型

  • 鹿児島 kagotma
  •           ___/\
  • 鹿児島が kagotmaga
  •               ___/\
  • 鹿児島に kagotme
  •               ___/\
  • 七夕 tanabata
  •         ___/\
  • 七夕が tanabataga
  •           ____/\

複合語

一般に言われている意味よりも広い概念である。例えば、上記の谷山は谷が一つの語として尻上がり型であるため、それに続く谷山は尻上がり型になる。従って、谷を頭にした谷村、谷底、谷間などはみな尻上がり型である。また、日本の日(に)、鹿児島の鹿(か)は一音ではあるが、それぞれ尻上がり、尻下がり型であり、七夕の七(たな)は尻下がり型であるため上記のようなアクセント型になっている。

  • から芋 karaimo
  •             ___/
  • から芋飴 karaimoame
  •               _____/
  • から芋団子 karaimodago
  •                 _____/
  • 鹿児島 kagotma
  •             __/\
  • 鹿児島弁 kagotmaben
  •                 ___/\
  • 鹿児島湾 kagotmawan
  •                 ___/\

なお、接頭語で一音であってもすべてアクセント型をもっているので、敬語の御(お)は尻上がり型であるので後に続く語の型の如何にかかわらずすべて尻上がり型になる。御を(み)と読む場合にはどういう訳か尻下がり型になる。(御足、御台所)また、小(こ)は尻下がり型で、小(こ)のついた言葉は皆尻下がり型になる(小指、子ども)

(4)外国語
鹿児島弁では外国の国名、地名、人名もすべて鹿児島流に尻上がりと尻下がりの二つの型で発音する。
●尻上がり型

国名イギリス、フランス、アメリカ
地名シャンハイ、シカゴ
人名殆どない

●尻下がり型
国名ロシヤ、ドイツ、スペイン
地名パリ、ロンドン、ワシントン
人名サッチヤー、レーガン、 クリントン、マッカーサー

どういう基準で使い分けているのか判らないが、総じて尻下がり型の方が優勢なようだ。外国語(英語)のアクセント(高低でなく強弱であるが)が前の方にあることが多いせいかもしれない。
しかし、前述のように鹿児島弁では促音(つ)、発音(ん)、単独の子音は拍に数えない。この点は外国語(英語)に近い。一方、アクセントが最後かそのひとつ前という鹿児島弁のアクセントは英語になじまない。鹿児島出身者は外国語は得意なのか不得意なのか?

(5)例文

  • 貝 買いに 来い  kai kaini koi
  • け け け け  ke keke ke

鹿児島弁では、動作の目的を表す助詞は「け」(標準語では「に」)である。
遊びに来い(あすっけけ)。

このアクセントはどうなるか。貝 買いに 来い という3つのアクセント節で話す場合と、貝買いを一つの言葉として 貝買いに 来い という2つのアクセント節で話す場合は別になる。

貝は尻上がり、買いは尻下がり、来いは尻上がりのアクセントであるので、二つのケースでは次のようになる。

  • 貝 買いに 来い  kai kaini koi ke keke ke
  •                                                     /\ /
  • 貝買いに 来い  kaikaini koi kekeke ke
  •                                               __/  

け け け け とか 前記の あっのあっのあっ(秋の鯵の味)ような同音の語が続く場合が多い鹿児島弁では、アクセントを間違えると全然通じないことになる。

3.文法

(1)動詞の活用
動詞の活用の種類は現在の標準語の口語では、5段活用、下一段活用、上一段活用、サ行、カ行の変格活用の5種類である。ところが鹿児島弁では古い文語体の下二段活用、上二段活用が残っていて7種類になっている。(だだし、下一段と上一段は非常に少ない。)

動詞の活用形は、日本語と同じく次の5つである。

続く語用例
活用形標準語鹿児島弁
未然形ナイ、レル(ラレル)、ウ(ヨウ)、セル(サセル)ン、ウ(ヨウ)書カン、書コ
連用形マス、タイ、タモス、タ書キ(ッ)モス、書イタ(ケタ)
終止形  書ク(カッ)
連体形トキ、モノトッ、モン書ットッ、書ッモン
仮定形バ、ドン書ケバ、書ッドン

5段活用

上の用例のように、書くの「か」という語幹に、「か、き、く、け、こ」 と、カ行5段にわたって活用しているから5段活用と言うわけである。しかし、鹿児島弁では未然形の意思、希望をあらはす助詞「う」をつけるときは、書こうではなく「書かう」からkau → koという変化で「書こ」となっているので、昔の文語体の4段活用といった方がよい。

下一段活用

鹿児島弁では文語体の活用と同じように下一段活用は殆ど下二段活用になる。

活用形標準語鹿児島弁
未然形投げ(ない)、混ぜ(ない)投げ(ん)、混ぜ(ん)
連用形投げ(ます)、混ぜ(ます)投げ(もす)、混ぜ(もす)
終止形投げる 、 混ぜる 投ぐ(ツ)、混ず(ツ)
連体形仝上仝上
仮定形投げれ(ば)、混ぜれ(ば)投ぐれ(ば)、 混ずれ(ば)
命令形投げろ、混ぜろ投げ、混ぜ

標準語では語幹に続いて、「げ」、「ぜ」とエ列だけになっている が、鹿児島弁では、「げ、ぐ」、「ぜ、ず」とエ列とウ列の二段に変化している。ただ、下一段活用のうち、語幹のない「出る」、「寝る」などは、ラ行5段か下一段の両方を使う。
出ら(ん)
出(ん)
出い「り」(もす)
出(もす)
出つ「る」
出つ「る」
出れ(ば)
出れ(ば)
出れ
出ろ
寝ら(ん)
寝(よう)
寝い「り」(もす)
寝(もす)
寝つ「る」
寝つ「る」
寝れ(ば)
寝れ(ば)
寝れ
寝ろ

上一段活用

ほとんどラ行5段活用になる。しかし、連用形には上一段的な使い方がされる。

活用形標準語鹿児島弁
未然形起き(ない)、見(ない)起きら(ん)、見ら(ん)
連用形起き(ます)、見(ます)起きい「り」(もす)、見い「り」(もす)、起き(もす)、 見(もす)
終止形起きる、見る 起きる(ツ)、見る(ツ)
連体形仝上仝上
仮定形起きれ(ば)、見れ(ば)起きれ(ば)、見れ(ば)
命令形起きろ、見ろ 起きれ、見れ

標準語の上一段活用のうち、「落ちる」は下二段活用になる。
落て(ん)落て(もす)落つる(ツ)落つれ(ば)落て


(2)助動詞の活用
助動詞のうち、せる、させる(使役)、れる、られる(受け身、自発、尊敬、可能)は標準語では下一段活用であるが、動詞の場合と同じように鹿児島弁では下二段活用になる。これは文語体と同じであり、昔の形が残っているわけである。
活用形標準語鹿児島弁
未然形飲ませ(ない)、 打たれ(ない)飲ませ(ん)、打たれ(ん)
連用形飲ませ(た)、打たれ(た)飲ませ(もす)、打たれ(もす)
終止形飲ませる、 打たれる 飲まする(ツ)、打たるる(ツ)
連体形仝上仝上
仮定形飲ませれ(ば)、 打たれれ(ば)飲ますれ(ば)、打たるれ(ば)
命令形飲ませろ、 打たれろ飲ませ、打たれ


(3)助動詞の特徴
(a)可能の助動詞、れる、られる、は鹿児島弁では殆ど使われない。「~(動詞の連用形)がなる(ツ)」が使われる。

  • 書ツがなツ、しがなツ、見がなツ

否定文には「が」の代わりに「は」(音便化して「や」)がよく使われる。

  • 書きやならん、しはならん、見やならん

否定文で特異なのは、「え」を語頭に持ってくる使い方がある。これは九州全般で使われているが鹿児島弁では否定形にだけ使われる

  • え飲まぬ(ん)、え知らぬ(ん) 

(b)尊敬の助動詞「れる」、「られる」は鹿児島弁では殆ど使われない。古語の「やる」、「やす」、「やんす」などのほか、「たもる」 「たもす」など敬語の体系は独特のものがある。後述。

  • 書っきゃい、見やい、しやい、見やったもんせ

(c)否定の助動詞「ない」は鹿児島弁では古語の「ぬ(ん)」が使われる。
(d)希望の助動詞「たい」はあまり使われず、泣こごあツ(ちゃツ)、
読もごあツ、投ぐごあツなどが使われる。
(e)伝聞の助動詞「そうだ」は鹿児島弁では「げな」(接尾語「げ」に「なり」がついたものから{岩波古語辞典})が使われる。

  • 読んだげな、見やったげな

(f)確かでない断定を表現する助動詞「ようだ」は鹿児島弁では「ごちゃツ」が使われる。

  • 冬んごちゃツ、知らんごちゃツた

(g)断定の助動詞「だ」は西日本で使われている「じゃ」になる。
(h)丁寧語をつくる助動詞「ます」は「もす」が使われる。

(4)助詞の特徴
日本各地の方言にはその方言の特徴的な助詞がある。関東の「ベイ」、静岡の「ズラ」、名古屋の「ナモ」、関西の「どす、だす」、長崎を中心とした九州の「バッテン」などが有名である。鹿児島弁でも助詞には面白いものが多い。そのうちの主なものをあげると、

  • 俺(の)家 → 俺(が)
  • 俺(の)だ → 俺(がと)じゃ
  • 東京(に) → 東京(せえ)
  • 見(に)行く → 見(け)
  • 花(より)団子 → 花(よっか)
  • 良い(から) → 良か(で)
  • 見た(が)(のに)(けれども) → 見た(どん)(どんから)(ばっ)(ばってん)
  • 何時(まで) → 何時(ずい)(ぎい)
  • どれ(だけ) → ど(しこ)
  • 本(でも)読んで → 本(どん)読んで
  • 投げる(ぞ) → 投ぐツ(ど)

(5)形容詞の特徴
形容詞には、東九州系の(イ)型と西九州系の(カ)型が入り交じって使われる。(イ)型は標準語と同じく「良い」、「寒い」と終止形には必ず「イ」がき、(カ)型は「良か」、「寒か」と必ず「カ」がつく。現在の口語の形容詞の活用には次のように「イ」の型と「カ」の型が混じっている。

未然形連用形終止形連体形連体形
かろ(う)かっ(た)く(なる)いい(時)けれ(ば)

物の本によれば、昔の日本語には古文の(く、く、し、き、けれ)という現在の「イ」型の原型の形容詞の活用しかなかったが、助動詞に続かないので連用形(く)に(あり)をくっつけて助動詞につながるようにしたということである。その(くあり)が、(かり)となり「カ」型の原型になった。したがって上の口語の活用表では(う)、(た)という助動詞につながるときだけが「カ」型で、助動詞につながる未然形には「イ」型は存在しない。

九州の「カ」型はおそらくそうした歴史を経てできたものと思われるが、鹿児島弁の活用を見てみよう。
活用形「カ」型系 「イ」型系
未然形かろ(う) 
連用形かっ(た)(せえ)、かい(もす)っ(せえ)、(なる)
終止形
連体形
仮定形かれ(ば)みけれ(ば)

このように、未然、連用形だけでなく、終止、連体、仮定形まで「カ」型が使われる。なお、(せえ)は助詞であるが「カ」型も使われるようだ。

(6)形容詞の音便
「イ」型は連用形(く)、終止、連体形(い)であり、それぞれ音便化し易いので原型が判らなくなるほどである。

  • 赤く(なる) → あこ(なっ)  akaku → akau → ako
  • 悲しく(なる) → 悲しゅ(なっ)  kanasiku → kanasiu → kanasyu
  • 薄く(なる) → うす(なっ)  usuku → usuu → usu
  • 黒く(なる) → くろ(なっ)  kuroku → kurou → kuro
  • 黒く(なる) →くろ(なっ)  kuroku → kurou → kuru

(く)の子音kが脱落して音便化する。

  • 赤い → あけ  akai → ake
  • 悲しい → 悲し  kanasii → kanasi
  • 薄い → うし  usui → usi
  • 黒い → くれ  くれ

(い)が前の母音とくっついて音便化する。

(7)副詞の特徴
副詞にも特徴のある面白い言葉がある。

  • いっき(たっちき) … すぐに
  • たっちんこめすぐに
  • きっと … かならず
  • まこて … まことに
  • ほんのこて … ほんとうに
  • ちっと(まちっと) … ちょっと(もうちょっと)
  • まいっど … もういちど
  • まれけんな … ときには
  • まれけん … ときどき
  • あんまい … あまり
  • あっぜ … 非常に
  • いけんしてん … どうしても
  • ちゅわいちゅわい … ちょろちょろ
  • あいたけねたけ … あるだけ全部
  • いっぺこぺ … いっぺこぺ
  • おもしっかもしっ … 面白おかしく
  • ごろいと … とうとう
  • さしかぶい … 久しぶりに
  • ちんちんぼっぼっ … そろそろ
  • てげてげ … 適当に
  • ばったい … どうしても

(8)敬語
鹿児島は老若、上下の関係がうるさく、そのため尊敬語、謙譲語の体系が複雑に出来あがっていて、今の私などには使いこなせないほどである。尊敬語では、やる系とたもる系が、謙譲語では、もす系がよく使われる。

やる系(尊敬語、丁寧語)

やる、やんす、やす があり、「ある」から、やる、やんす、やす と変化して中世末期以降に出来たもので、鹿児島弁だけでなく関西弁などでは今でもよく使われている。

(見る)やる系やんす系やす系
未然形やらんやろ(らう)やんは(さ)ん
やんそ(さう)
やんは(さ)ん
連用形やった やした
終止、連体形終止、連体形
仮定形やればやんせば
命令形命令形やんせ(やす)

このように、やんす系、やす系では使われない活用がある。

たもる系(尊敬語、丁寧語)

たもる系には、たもる、たもんす、たもす がある。 たもる系は、上記のやる系に続けて使われる場合、助詞「て」に続けて使われる場合、動詞の連用形に続けて使われる場合がある。
見やったもした 見っ(て)たもした 見たもした(?)

活用形見やっ見っ(て)
未然形たもらん
たもろ(らう)
たもんは(さ)ん
たもんそ(さう)
たもは(さ)
連用形たもっ(り)た たもした
終止、連体形たもっ(る)  
仮定形 たもればたもんせば 
命令形たもしたもんせたもし(す)

このほか、「んす」「す」のついた言葉に、「おじゃる」から「おじゃんす」「おじゃす」、「ござる」から「ごわ(ざ)んす」「ごわ(ざ)す」などがいろいろつかわれている。

もす系(謙譲語)

もす系は謙譲語で、自分や身内、目下の第三者の行為をへりくだって話す場合に使われるもので、話す相手の行為に使ってはならない。しかし、最近では時々次のような間違いが聞かれる。
ゆくさ おじゃいやいもした。
これは、
ゆくさ おじゃいやったもした。
でなければならない。

もす系には、「もす」と「もんす」がある。

活用形もす系もんす系
未然形もは(さ)ん
もそ(さう)
もんは(さ)ん
もんそ(さう)
連用形もした 
終止、連体形もす 
仮定形もせばもんせば
命令形はない  

疑問文形の多用

日本語でも英語でもそうだが、「しろ」とか「して下さい」とかいう代わりに、「しないか」とか「して下さいませんか」とか疑問文形での表現がある。この方が少し柔らかい響きになる。鹿児島弁では、むしろこの疑問文形で表現する方が多い。鹿児島弁は音便で促音や撥音が多く、きつい響きになるので、それをやわらげるためかもしれない。

「しろ」とか「しないか」という表現は鹿児島弁では次のようになる。
しろ

  • しやい
  • しやんせ
  • しやったもし
  • しやったもんせ

しないか

  • せんか
  • しやらんか
  • しやはんか
  • しやったもはんか

尊敬語、丁寧語を重ねる

鹿児島弁では、上記の「やる」、「たもる」などの助動詞やその他の尊敬語、丁寧語を重ねて敬語を作っている。「おじゃる」は、「お出である」から生じた尊敬語であるが、それに「やる」、「たもる」をかさねてつぎのようないろいろな表現をする。

  • おじゃんせ
  • おじゃはんか
  • おじゃいやんせ
  • おじゃいやはんか
  • おじゃいやったもんせ
  • おじゃいやったもはんか

このように鹿児島弁の敬語の体系は複雑な上に、何段階かあり、これを間違うと相手に失礼になるので難しい。

あとがき

鹿児島弁は難しい。これを理解するには日本の古語、方言、特に九州各地の方言の勉強が必要であるが、残念ながら私にはその方の知識がほとんどない。また、言葉の成立を追って行く過程で、原因と結果を取り違えるような誤りを犯しがちである。したがって、このレポートの中には、間違いや独りよがりの独断がたくさんあると思われる。ご寛容をお願いし、出来ればご指摘を頂きたい。

故郷を想い、故郷の言葉を詳細に研究された救仁郷さんに、敬意を表すると共に掲載要請に対し気持ちよく寄稿いただいたことに感謝申し上げます。


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